ナカス・メモ

あまり書くことなし

23時各駅新宿/NORIKIYOを読む

 <ビギナー向けに書きました。訂正あればご指摘お願いします。>

 僕はヒップホップを愛聴しているが、特に好きなラッパーと訊かれたらNORIKIYOを真っ先に挙げる。

 NORIKIYOは相模原市出身でヒップホップクルーSDP、SD JUNKSTAに所属し、現在までジャパニーズヒップホップ界に多大な影響を与え続けている。彼は2007年、1stアルバム『EXIT』をリリースした。このアルバムは2007年日本語ラップwebマガジン「COMPAS」にて年間最優秀アルバムに選出されるなど、非常に評価が高い。

 NORIKIYOの1st、2ndアルバムはハードでかなりストリート色の強い作風であった。いわゆるハスリング(=ドラッグの運び屋としての生活を歌う)ラップである。彼は日本屈指のリリシストであり、彼の魅力はラップスキルだけでなく、そのリリックにもある。しかし、ヒップホップに不慣れな人にはわかりにくい隠語や言い回しもあるようなので、簡単に解説を入れながら読んでいきたい。

 

『23時各駅新宿 Silver Seat

Headphone中鳴るMobb Deep 背にリュック

車は避ける小田急Train

乗りDelivery酷刑 撥ねたYENが取り分』

 小田急線に乗り、相模原から新宿へと向かう。車内には人が少ないのでシルバーシートに座っても構わない。ヘッドホンからはMobb Deep(USのヒップホップユニット。これまたハスラーである)が流れてくる。ドラッグの入ったリュックを背負ったまま、隠すようにシートに腰掛ける。酷刑はコカインのこと。それらを売り渡す際にピンハネした分がハスラーの儲けになる。このように、仕事に向かう一瞬一瞬を詳細に描くことで緊張感をビビットに、リアルに伝えている。

『よく見ろ後ろ猿も木から落ちる

かけた天秤は結局はGOサイン』

 足を洗いたい気持ちは当然ある。手慣れた先輩たちでさえ失敗し、いつ自分が逮捕されるかわからない。でもこの仕事しか生きる術がない。

 NORIKIYOのリリックに悪自慢はない。彼はドラッグで生きる人々の生活を描き、その社会的問題点を浮き彫りにする。

『悪夢の続き?それとも天竺?

なわけねえ目前逸らすな 現実が叩くケツ 走らす鉛筆』

 NORIKIYOはクラブでトラブルに巻き込まれ大怪我をしたことがあり、医者からは車椅子生活を覚悟するように言われたそうである(『EXIT』のジャケットで彼は車椅子に座っている)。絶望の淵にあった彼はヒップホップで大成することに賭け、リリックを書き、ビートを打った(余談だが彼は元々K-NERO名義でビートメイカー=作曲家としても活動していた)。一刻も早くハスリング以外で生計を立てるためリリックを書いてヒップホップで成功しなければならない、という焦りが現れている。ちなみに現在は問題なく歩けるまで回復している。

 ラッパーといえば「オラついてる、悪自慢してる、母ちゃんありがとう」みたいなイメージが強いかもしれないが、この曲には「いつかハスリングをやめらければならないけど、生活のために、夢のためにやめられない」という心象の揺れが内省的で詩的なリリックによって表現されている。

 先にも書いた通り、NORIKIYOは1st『EXIT』2nd『Outlet Blues』ではストリート色の強いリリックを書いている。3rd以降は社会問題に切り込んだラップが多くなる。どのアルバムでも、力強く鋭いリリックをスキルフルでスムースなラップに乗せて聴かせてくれるラッパーなのだ。

 また、ここから興味を持った人はぜひNORIKIYOだけでなく他のラッパーやビートメイカーの曲も聴いてみてほしい。NORIKIYOはfeaturingも多いので、共演者からdigるのもおすすめだ。